桃の花を溺れるほどに愛してる

「そんな悲しそうな表情を浮かべていたら、僕まで悲しくなっちゃうじゃないですか。だから、桃花さん。そんなに気に病まないでください」

「っごめん……」


 しょんぼりと肩を落とした彼女だったが、何かを思い付いたのか、バッと顔を上げて僕を見上げた。


「夢!」

「えっ?」

「夢、見付かったじゃん!」

「夢……?」

「前に僕は夢なんてないクズだーって、自虐してたじゃん?でも、夢ならもう見付かったじゃんっ!」

「……?」

「アンタのお父さんの後を継いで院長になって、苦しんでいる人達を救えればいいんじゃないかな?アンタのお母さんみたいに事故に遭った人をも、救っちゃえばいいんだよ!」

「!」


 彼女なりの提案。彼女なりの言葉。彼女なりの気遣い。彼女なりの優しさ……。

 どうしてその夢のことを、はやく思い付かなかったのだろうか?

 僕は彼女のおかげで、自分の夢を見付けることができた。

 夢は、案外すぐ隣で、僕に見付けられるのを待っていたんだ……。


「ありがとう、桃花さん。僕は君に救われてばかりです」

「そんなっ、むしろ、無責任なことを言っちゃってごめんね?私、思い付いたらすぐに口にでちゃうから、さ……」

「いえ。僕は桃花さんの言葉のひとつひとつが、とても嬉しいんです。ありがとう、桃花さん」


 礼を言われた彼女は、頬を赤く染めながら照れ臭そうに笑った。

 もしかしたら彼女は、礼を言われて慣れていないのかもしれないな……。

 いや、僕も罵倒ばかりをされて、礼なんて言われたことが無いのだけれど。