屋上の端までやってきた僕は、背中を風で押されるがまま、飛び降りようと前屈みになった……。


「アンタ、死ぬの?」


 今まさに飛び降りようとした時、背後から聞き覚えのない声がした。しかも、まだ若いであろう女の子。

 飛び降りるのを踏み止まり、ゆっくりと振り返って声の主を見る。

 そこには、やっぱり見知らぬ女の子がいた。着ている制服を見て、すぐに近くの中学校の生徒――しかも1年生――だと気が付いた。

 僕は何も言わずに無言を突き通していると……彼女は予想もしていなかった言葉をさらりと吐いた。


「へぇ、死ぬんだ?じゃあ、私も一緒に死んじゃおうかな。この病院の屋上から飛び降りて、さ」

「えっ?」


 思わず聞き返す。


「なんてさ!冗談よ、冗談!本気にしないでよねっ?」


 そう言った彼女は楽しそうにケラケラと笑ったのだけど、その笑顔に一目惚れをしてしまっている僕が、そこにはいた。

 また金が目当てなのかもしれないが、それでもいいとさえ思えるほどに。

 僕のことが嫌いになってイジメてくるのかもしれないが、彼女になら何をされてもいいと思えるほどに。


 ――僕は彼女に惚れていた。


 「――じゃあ、私も一緒に死んじゃおうかな。――」

 ……彼女のこの発言が本気であることに気が付くのは、もう少し後の話なのだけれど。