桃の花を溺れるほどに愛してる

「えっと、天霧さんの息子さんにお会いしたいのですが……」

「ああ!春人さんですね!春人さんなら確か先程、駐車場の方に向かっていきましたよ」

「そうですか!ありがとうございます……!」


 私はナースである受付の山内さんにお礼を言ったあと、壁にかかっている地図を頼りに、駐車場に向かって早歩きをした。

 この廊下をまっすぐに歩けば、駐車場にたどりつくはず……!

 入り口を出た私は、すぐ側にある駐車場にそっと目を向ける。

 そこには、自分の赤い車に向かっていく、白衣を身にまとった春人の後ろ姿があった――のだけれど……。


「――っ!!!」


 春人にベッタリと寄り添う、見覚えのない綺麗な女性の姿もあった。

 それを見た瞬間、頭の中が真っ白になって、何も言葉がでなくなった。

 なんだろう?この気持ちは。

 ドクンドクンと心臓が高鳴り出して、私はその場から動けなくなる。

 こんな気持ち、知らない。

 切ないような、苦しいような、……心臓がギュッと痛くなるこんな気持ち、知らない。

 どうして私は、こんな気持ちになるのだろう?

 なんなの?これじゃあ、まるで……私は、春人のことが……。