桃の花を溺れるほどに愛してる

 ――今日1日の学校生活が終わり、私は教科書やノートを鞄の中に詰めて教室を飛び出した。

 先に教室を出ていった、京子の背中に向かって声をかける。


「京子、あのねっ……」

「あぁ~、私、今日は彼氏と帰る約束をしているんだよねぇ~」

「え……」

「だから、ごめん!今日は私抜きで帰って!」


 「ね?」と手を合わせて言う京子だけど、私は京子の手の隙間からウインクをしたのを見逃さなかった。

 もしかして、京子……今日は、私が最初から一緒に帰れないことがお見通しで、わざわざ……?


「ありがと!京子!」


 私は京子に向かって笑顔で手を振り、走って学校を飛び出した。


「京子、お前……神代のヤツと何かあったのか?」

「んー……ん?私はただ、迷える親友の背中を押しただけ!」

「ふーん」


 私が学校から出たあと、京子と、京子の彼氏である一条(いちじょう)くんがそんな話をしていたことを、私は知らない……。