桃の花を溺れるほどに愛してる

「……仮にそうなのだとして、どうして春人が大人の余裕ぶる必要があるの?」


 私に気を使わせないようにって京子は言ったけど、そんなの、フツーに距離をおこうって言えばいいじゃない。

 私は別に、そんな細かいこと、いちいち気にしないんだから……さ。


「え?そりゃあ、やっぱり……桃花のことが好きだからでしょ」

「えっ?」

「桃花のことが好きだから変に気を使わせたくない、変に気を使わせたくないから、大人の余裕を見せる……んじゃないの?」

「……」

「もしかして、天霧さんは桃花がフラれるために“嫌われる女”の演技をしていたこと、気が付いていたのかもよ?」

「!」


 ……全然、考えなかった。

 春人が私の心の中を読んで、私の演技に合わせてくれていたかもしれない、なんて。

 私の演技をそのまま真に受けちゃって、ちょっとずつでも私のことを嫌いになっているものだと思っていた。

 だから距離をおこうって……そう言ったものだと思っていた。

 っていうことは、私……。

 まだ春人は私のことを想ってくれているのに、「距離をおこう」って“言わせてしまった”……?

 それって、相手のことが好きなのに、嫌いだって言わせてしまったことと同じ……ようなものだよね?

 なにそれ……。

 私、最低じゃんっ!!!