桃の花を溺れるほどに愛してる

「聞いて!京子!」

「おうよ!もちろんっ!昨日、何があったの?桃花」

「実は……」


 私は昨日の出来事をすべて話した。

 ……いや、車で送り届けてもらったあと、気を紛らわすために顔に目とか鼻とか口がついているっていう変な話をしたことは、さすがに言えなかったけれど。


「――ってことがあってね、あんなに清々しい表情で距離をおこうとかって言うの、フツーおかしくないっ?!私が演技をしてきたおかげなのだとしても、なんか私だけが必死だったみたいで悔しいじゃん?!」


 それを聞いた京子は、ぽかんとしている。


「えっ……と、桃花?それって、天霧さんの大人の余裕っていうやつなんじゃ?」

「へ?」


 おとなの……よゆう?


「天霧さんは一応社会人なんだし、桃花に変な気を使わせないように、表情を隠すことだってあるだろうよ~」


 はははっと呑気に笑っている京子を見る私が、今度はぽかん……。

 って、春人の大人の余裕だとか言われても、いまいちピンとこないのですが。

 だって、あの春人がだよ?!いつも「桃花さん桃花さん桃花さん!」って、まるで犬みたいに尻尾を振りながら抱き着いてこようとする春人がだよ?!

 大人の余裕だなんて、ちょっと信じられない……かも。