桃の花を溺れるほどに愛してる

 ――病院に戻ってきた僕は、自分の仕事には戻らず、真っ先に屋上へと向かった。

 外の空気を吸いたかったのもあるけれど、やっぱり1人になりたかったから……っていうのが、1番の理由かな。

 僕は弱い。

 だから、今も桃花さんに会いたくて、触れたくて仕方がないのを、こうすることでしか紛らすことが出来ないんだ……。

 ……本当はね、分かっているんだ。

 桃花さんと距離をおいたって、なんの解決にもならないことを。

 距離をおいた先に待っているのは、決してあたたかな未来ではなくて……。


「自然、消滅……かな。はは……」


 絶望的な未来だということを。

 いつになるのかな。自然消滅になって、僕がこの世から去る日は。

 1ヶ月後?1週間後?明日?……いや、もしかしたら今……?

 今、この屋上から飛び降りたら、桃花さん……君は笑ってくれますか?

 君を繋ぎ止めているものがこの世からいなくなって、自由になって……そうしたら、笑ってくれますか?

 いつまでも、ずっと、ずっと、笑っていてくれますか……?

 もしも、そうなら、僕は……僕は、今、ここから飛び降りて――。


「――アンタ、死ぬの?」


 ……っ!

 ふと、頭を過ぎったのは、昔の記憶の欠片。僕がまだ高校3年生だった頃の、記憶の欠片。