桃の花を溺れるほどに愛してる

 桃花さんを無事に家に送り届けると、いつもはすぐに家の中に入る桃花さんなんだけれど、今回はジッと僕の顔を見つめている。


「……?桃花さん、僕の顔、何かついていますか?」

「つ、つ、ついているわよ!」

「え!本当ですか!」


 あわわ、と両手で顔を覆うように隠すと、桃花さんは叫ぶようにして言った。


「目と鼻と口!あと眉毛と耳と……もうっ、春人なんか知らないっ!」

「え?!あのっ、とう……か……さん……」


 吐き捨てるようにして言い放った桃花さんは、ずんずんと家の中に入っていってしまった……。

 なっ、なんだったんでしょうか……今のは……。

 僕、何かカンに障るようなことを言ってしまったのでしょうか……?

 うーん……。桃花さんを怒らせてしまうような発言はしていないつもりなんですが……。

 よし、メールか電話で直接尋ね……る……って、さっき距離をおこうって言ったのは僕なのに、それをすぐに破ってどうする。ちゃんと、発言は守らなくちゃ。

 はぁー……。距離をおくっていうのも、自分で提案しておきながらアレだけど、かなり苦痛というか……。

 ははは、仕方がない、か。うん、がんばって我慢しよう。

 小さく溜め息を吐いたあと、僕は車を発信させて病院へと戻った。