桃の花を溺れるほどに愛してる

 桃花さんを手放す気は毛頭ないけれど、“恋人”と“他人”のギリギリのこの距離が絶たれてしまった時……。

 弱くて脆くて不安定なこの繋がりが絶たれてしまった時、僕はもう、この世にはいないだろう。

 でも、安心して。これは僕が選んだ選択であり、結末であって、君は何1つ、悪くない。

 僕が勝手に距離をおいて、僕が勝手に死んでいるのだから……だから、君は相も変わらず、この世でずっと、笑っていてください。

 僕なんかのことは、“また”、忘れてしまってください――。


「ふっ、ふーん?別に?アンタがそう言うのなら、私はそれでもいいけど?」


 強がりで弱虫な桃花さんは、震える声を押し殺すようにしてそう言う。

 ……それは、どうしてなんでしょう?どうして、そんなにも声が震えていらっしゃるのですか?

 ……少しぐらいなら、期待……しても、いいのでしょうか?だなんて、ダメに決まっていますよね、ごめんなさい。


「はい、」


 僕はこの時、気が付かなかった。


「そうしましょう」


 桃花さんが、とても悲しそうな顔をしていたことを……。その悲しみの意味を……。