合格発表の日は、いつものように先生が送ってくれた。


掲示板に群がる、大勢の人。

今日は上級試験の人と同時の発表だから、ものすごい人数の人が小さな掲示板のそばにいる。

笑ってる人、泣いてる人。

とにかく何かを叫んでいる人、冷静に受け止める人。

3次試験までたどり着いた人だから、みんな本気で。

この発表が意味することは、ひとりひとり違う。


だけどね、間違いなく私は、一番受かりたいよ。

人それぞれ事情は違うって分かるけど。

でも。


もしも落ちたら、歩を失う。

先生を悲しませる。


今年じゃなきゃいけないんだ。

今年じゃなかったら、もしかして。

先生は隣にいないかもしれない―――



「そろそろ、行ってみるね。」


「ああ。」



やっと人の波が退いてきた頃。

私は、ようやく掲示板を見に行く決心がついた。



「先生、約束忘れてないよね。」


「え?」


「忘れてないよね。」


「……ああ。忘れてないよ。……今週末、歩は林間学校だろ?それに合わせて、遠くに行こう。」


「……うん。」



少し微笑むと、私は人の波に紛れた。

本当は怖くて仕方がなかった。



「1023、1023……」



上級試験の結果の方を見ていたことに気付いて、肝を冷やしながら反対側に移動する。



「……あっ、」



あった―――――



「先生っ!」



振り返って、満面の笑みでピースサインをした。

すると、先生は。

人目も気にせずに、人ごみにずんずんと分け入って。



「莉子、よくやった!」



私の髪をぐしゃぐしゃにして、笑顔で喜んでくれた。



「先生、やめてよっ!」


「ありがとう、莉子。」


「なんで?ありがとうはこっちだよ。」


「いや、上手く言えないけど……。なんか俺、これで役目を果たした気がする。」


「え?」


「生まれてきた意味があったって、今思ったんだよ。」



先生の目には、涙が光っていた。

私もつられて、涙ぐんでしまう。



「ほんとにありがとう、先生。」


「よし、今週末は遠出するぞ!」



先生は、私の顔を見ないでそう言った。

その時、私の心によぎった影。

その影を忘れたくて。

だから、私はばかみたいにはしゃぎながら、先生と帰ったんだ。