「ただいま!」


「おかえり、莉子姉!」


「遅くなってごめん!今からごはん作るからね。」


「ううん、全然へいき!」



歩は、ニカッと笑うと、私のそばにやってくる。

日焼けした歩。

夏を越えて、たくましくなったね。

跡部先生がくれたバットで、毎日暗くなるまで、素振りの練習をしてるってこと。

お姉ちゃんは、知ってるよ。



「歩、私、頑張るね。」


「え?」


「跡部先生を喜ばせる!」


「うん!それなら、僕もがんばるよ!」



そう。

私たち二人がそれぞれに、ちゃんと生きていけるようになることが。

先生への恩返しだと思うんだ。

それ以上の恩返しは、今のところ思いつかない。



「いい匂い!」


「今日はオムライスだよ!」


「やったあ!」



今日は特売で、たまごが安かった。

それだけのことだけど。

歩はいつも、無邪気に喜んでくれる。

それは、歩の優しさ。



「今週末は、新しいバイト先に行くんだ!」


「バイト?」


「そう。先生がね、紹介してくれたんだよ。」


「ふーん。」



跡部先生のおかげで、次のバイトも決まった。

本当に、感謝してもしきれない。


同時に、先生の悲しそうな眼差しが、胸をよぎる。

先生の秘密を、知りたいような知りたくないような。

知ってはいけないような気もして。


だけど。

私は、先生の笑顔が好きだよ。

私と歩が精一杯生きることが、先生の笑顔につながるのなら。


私は、エプロンのひもを、きゅっと締めなおした。