「面白かったな!」


「うん。」



無理して笑う。

彼は満足そうに、繋いだままの手を離さない。

ああ、私ばかりじゃない。

この人のこと、私は裏切っているのに―――



「じゃあ、どこか喫茶店に入ろうか。うちの店じゃないほうがいいな。」


「でも、私、今日はまだ飲んでないよ……ホットミルク。」


「そんなの後で作ってやるよ。俺の家に来てくれたら。」


「え……ほ、ほんと?」


「え、来てくれんの?」



作ってくれる?

私の為に?

それなら、きっと。

横で見ていればレシピも分かるはず。

ただ、それだけだった。

私は純粋に、それしか考えていなかった。



「うん、行ってもいいの?」


「いや、俺一人暮らしだし、さすがに初デートで家に呼ぶのはアレかと思ったんだけど。莉子がいいなら歓迎するよ。」


「うん。ホットミルク、作ってくれるんでしょ?」


「ほんっとに好きなんだな、お前。」



頭を撫でられると、ぞわっと鳥肌が立った。


私は今まで男の人と付き合ったことはない。

生活にそんな余裕はなくて、告白されてもいつも断っていたから。

男の人と話をすることにも、触れられることにも慣れていない私。



「じゃあ、もう行こうか。家。」


「え、でも喫茶店は?」


「いいじゃん。ホットミルク作ってやるから。」


「……うん。」



手を引かれながら、私は一抹の不安を抱えて歩き出した。