「うん…分かった」




引き受けたけど残念に思っていた。


店で働くのが楽しいと感じ始めていたのに、今日は一日、家の中で子守…



仕方ないか。

ファーム月岡に母さんの存在は欠かせない。



父さんはハウス栽培の胡瓜やアスパラガスの収穫に早朝から出ていて、既に家には居なかった。


野菜畑も今日は忙しいらしい。



祖父ちゃんも祖母ちゃんも、大人達は皆忙しそうだ。


どう考えても大地を見るのに適任なのは、俺しかいない。



双子の妹達はまだ小学二年生。

大地の面倒を見させたら、おままごとの道具にしてしまうから無理だ。




賑やかな朝食が終わり、妹達はいつものように喧嘩しながらも、お揃いのランドセルを背負い一緒に家を出て行った。



祖父ちゃんと祖母ちゃんは開店準備を始める。



母さんは鼻水垂らした大地を一番近い小児科に連れて行き、30分して帰って来た。



そして慌ただしく店のエプロンを着ると、

「紫龍お願いね。困った事があったら電話して」

と言い残し、出て行った。




リビングのテレビの前に布団を敷いて大地を座らせた。


薬とスポーツ飲料を飲ませて、鼻水を拭いてやる。



後は子供用のDVDをかけておけば、しばらくはいい子にしているだろう。



38度くらいの熱じゃ、大地はじっとしていてくれない。


「熱があるから寝ていようね」なんて、そんな言葉は通用しない。




一応敷いてみた布団は、やはり意味はなく、

大地は怪獣フィギアを両手に持ち、DVDに出てくるデカイ着ぐるみと一緒に歌って踊り出した。




「トントントン!といれタン!
うーん、うーん、でたぁ!あはははっ」




やっと二語文を喋れるようになった大地。

何言ってんのか分かんない時も沢山あるけど、今の歌は上手だった。



ノックしてトイレに入り、うんちが出たと喜ぶ歌。

誰が聞いても分かるよ。

大地、上手に歌えたな。
リズム感も良かった。




2歳前でこんなに歌える幼児は、他にいないんじゃないかな。



ひょっとしてこいつには音楽的な才能があるかも。

将来、テレビに出るようなアーティストになったりして…



あれ…もしかしてこう言う感情を、親バカって言うのか?

親じゃないけど。