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[紫龍 13歳 夏]



7月。ラベンダーが次々と開花し、ラベンダー畑の続く丘は何色もの紫色で染まる。



ファーム月岡は大勢の観光客で賑わい、今年も商売繁盛。

家族全員ここが稼ぎ時とばかりに汗を流していた。



今年中学生になった俺は、この夏母から色々な仕事を任された。



今までは「出来る」と言い張っても、レジに立たせて貰えなかったが、

「私も中学生からレジ打ち始めたから紫龍もね。」

と言われて、初めてレジをやらせてくれた。



軽食コーナーでも、今までは片付け要員だった俺に、

今年からは注文取りや接客もしていいと許可してくれた。




今までになく忙しい夏。

去年まで父さんの野菜畑でバッタを追い掛けていたのに、今年は遊んでいる暇はない。



楽しい野菜畑に行けないのは少々残念だが、それが嫌だとは感じなかった。



むしろ張り切っていた。

新しい仕事を任されると、大人になった気がして気分がいい。



「ちょっと店員さん、〇〇と××が欲しいんですけど…」

そうお客さんに尋ねられると、一人前の店員と見なされた事が嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。




そんな訳で今年の夏は去年までとは違い、忙しい。


最近、学校を遅刻早退欠席しまくって働いていた。



義務教育の中学生にそんな事は許されないが、母はこう言う。



「夏くらい学校休んでもいいんだよ。

私も出席日数ギリギリだったもの。

それに紫龍には勉強の遅れなんて心配いらないでしょ?

いつだって100点しか取ってこないし。

先生にはまた風邪引いたって電話しといたからね」




先生だって欠席の本当の理由は分かっている。

けど何も言わない。

いや、何も言われない訳じゃないか…



この前頭痛がするから早退すると言ったら、

「頑張れよ。今度娘とオムカレー食べに行くからサービスしろよ」

と言われた。




この辺りの子供は農家や観光業の子が多いし、夏は皆そんな感じだ。



子供だって家族の一員だから働くべき。

そんな風潮が昔から当たり前のように流れている。
(※実際の富良野はそんなことないです。子供はちゃんと学校に行っています。すみません)