「ヘレンは魔法が使えるらしいのよ。でもリュイばあに言われて、もう使わないようにしてるんだって」
「リュイばあ、ね」
「ヘレンは我慢してると思うの。ほんとは魔法を使いたいんだわ。それでも使わないまま楽しいことを探したくて、素敵な話を聞いて気を紛らわせたくて、旅をしている人からおもしろい話を聞きたがってるのよ」
「そうかな」
矢継ぎ早に話すティアナを制するようにそう言うと、ティアナは動きを止めてマルセルをじっと見つめる。
「僕はただ純粋に、そう思っていると思うよ。魔法がなくても楽しいと」
「どうして? わたしには違うと思ったわ」
「そう思うのは、君がそうだからじゃない?」
マルセルの言葉に、ティアナは目を見開く。
驚きと悲しみの混ざったようなその表情は、言わないで欲しいと言っているようにも見えるが、きっとティアナはそのことに気づいていない。
ティアナの表情に、マルセルも少し胸が痛む。
「……どんなに想いを上塗りしようとしても、本当は、心の奥で、君は―――」



