「でもね、魔法を使わないようにしてから、調子が悪くって」
ヘレンは眉を寄せて、両手を握ったり開いたりして見せる。
「自分でも気づかないうちに魔法に頼っていたみたい。どうしても体の感覚がわからなくってよく躓いたり、物を落としたりするの。歩くのも体が重くて難しかったんだから」
「そうなの……ヘレンは大変ね」
それはティアナも知らなかった。
ティアナは生まれたときから魔法なしで暮らしていたからわからなかったが、ヘレンのように魔法を使って生活していたラナやジルは、ティアナのように生活することは不便なのかもしれない。
けれどヘレンは首を横に振った。
「最初は大変だったよ。でも、わたしは自分で自分の体を動かして何かするほうが好き」
「不便じゃないの?」
「ちょっとね。でも魔法なんてなくっても、楽しいことはいっぱいあるから」
「そうね」
ティアナは微笑んで頷いた。
魔法が使えなくて悔しかったとき、ティアナはそう考えるようにしていた。
魔法なんてなくても楽しいことや素敵なことを探して、あの頃は庭園をかけまわっていた。
「わたし、いつか旅をしたいの。自分の足で、歩いて、見て、きついことも、楽しいことも、やってみたい」
目を輝かせるヘレンに、ティアナは少しだけ胸が苦しくなった。
なんだかヘレンが、昔の自分と重なって見えた。
ヘレンはそんなティアナの心のうちを知る由もなく、明るい笑顔をティアナに向ける。
「だからわたしは旅人さんが好きよ。でも、今日はティアナからお話しを聞きたいの。何かおもしろい話、聞かせて!」



