物思いに耽っていると、部屋の扉がゆっくりと開いた。


マルセルが帰ってきたのだろうかと振り向き、入ってきた人物にティアナは息をのむ。


「あなたは……」


「ティアナ姫。無事に庭園から出られたようで何よりです」


そう言って恭しく頭を下げるのは、コレンタのティアナの庭園に現れ、指輪を渡していったあのフードを被った男だった。


アベルはまだ深い眠りの底にいる。


ティアナは警戒心を顕わに、男を睨み付けたまま一歩後ずさった。

その様子を見て、フードの男は不思議そうに首を傾げる。


「ティアナ……どうして警戒する? 俺はお前を助けたっていうのに」


「あなたを信用できないの。あんなことになるってわかっていたら、指輪なんか受け取らなかったわ!」


「でも、お前は今自由じゃないか。俺のおかげだろ?」


確かにその通りだ。

彼が指輪を渡さなければ、ティアナはまだ、あの庭園の中で過ごしていることだろう。

けれど。


「……こんな形で、あそこから出たくなかったわ」


フードの男を睨んだまま、爪が食い込むほど強く手を握りしめる。