ティアナが言い訳をしようとすると、急に体がふわりと浮き、目を見開く。


いや、浮いたのではない。

ジルに抱え上げられたのだ。


ジルはティアナを木の上から攫うと、そのまま静かに地面に着地した。

ティアナは我に返り、急いでジルの腕から逃れた。


「何するの!」


いつの間にか靴も履かされていた。

一人憤るティアナをよそに、ラナはうっとりと指を組んでジルに尊敬のまなざしを向けている。


「さすがジル様! もう飛行魔法を習得されたのですねっ」


ラナの視線に、ジルは照れくさそうに顔を背けた。


このコレンタは魔法を扱うことに長けた国だ。

王族も国民も、ほぼ全員魔法を使うことができ、それは生活の様々な場所で役立てられている。


それなのに、ティアナはまったく魔法が使えなかった。

庭園暮らしが始まる前に受けた魔法の適性試験で、基準外だったのだ。


もしかしたら何かの間違いでできるかもしれないと、ジルのまねをして魔法を使ってみようとしたこともあったが、素晴らしいほど失敗ばかりだった。


だけどそれがなんだ。


魔法が使えないからといって、特に不都合を感じたこともなかった。

空を飛べないなら身軽になればいいし、落ち込んでいるラナを元気づけたいなら歌を歌えばいい。


ただ一つ問題があるとすれば、宝石に触れられないということだ。


この国の宝石は全て魔力が宿っており、魔法が使えない者が触れると死ぬこともある。

そのため、基準外とされた者は宝石に触れることを禁じられた。