「ティアナ……なんでフォークなんか持ってるの?」
「いい武器になると思わない? 護身用よ」
「危ないから僕が預かっておく」
「あっ! やめて、取らないで!」
見つけた武器を奪われそうになって、思わずフォークの先で突いて反撃してしまった。
「いたっ、それ地味に痛いからやめて」
そう言ったときにマルセルがバランスを崩して、棚にぶつかってしまった。
しまったと思ったときには棚に並べてあった小瓶や本が床に落ち、大きな音をたてた。
その音を彼女が聞きつけないわけもなく、すぐに駆けつける足音がし、20代も半ばと思われる女性が顔をだした。
部屋の中にたつマルセルの姿を発見して目を見開いたかと思えば、すぐさま近くの棚にあった酒瓶を手に構えた。
ティアナは身の危険を感じてポケットの中に引っ込んだ。
対してマルセルといえば落ち着いた声で女性に対応している。
「怪しいものじゃありません。ここに僕の猫が入り込んでしまったもので」
本当にそれを言い訳にするとは思わなかったティアナは、ポケットの中で頭を抱えた。
「そうだとしても、家に入るのなら一言声をかけてもらわないと困りますわ」
女性の邪険な声が聞こえる。
当然だ。
少しだけポケットから頭を出して様子を窺ってみると、女性はマルセルを睨みつけながらじりじりと迫ってくる。



