正攻法できちんと門から入り、きちんと玄関から屋敷の中へ入る。
さすがにここで窓から入ろうとしたなら、ティアナはかみついてやろうと思っていたがそうする必要はなかった。
中は人の気配がせず、とても静かだ。
日が落ちてきたせいもあって室内は薄暗く、壁にかけられたこの家の旦那様らしき肖像画や、階段脇に置かれている天使の石像が不気味に浮かび上がる。
ティアナは口を開くのが憚られて、マルセルがもくもくと歩いて行くのにただ身をまかせた。
階段を上り、二階のフロアへとたどり着いたところで、すぐ近くの部屋からかすかな物音が聞こえ、ティアナは体を強張らせた。
コインか何か、小さなものが床に落ちたような音だった。
見ると、部屋のドアが少し開いている。
マルセルがそっとドアに近づいて中を確認しようとしたので、ティアナも顔だけだして部屋を覗き込んだ。
「きゃ……」
悲鳴をあげそうになったティアナの口を、マルセルがすかさず人差し指で押さえてくれたおかげで気づかれずにすんだ。
薄暗い部屋の中には何かがいた。
それが床に座り込んだ若い女性だとわかって、ティアナほっと胸を撫で下ろした。



