「マルセル……! 勝手に入って大丈夫なの?」
「平気。家の人は連行されたらしいし。もし誰かがいても、迷い込んだ猫を探してるんだって言えばいいんだよ」
「名案だとは思えないわね」
呆れるティアナをよそに、マルセルは塀を超えようとするが、どうにも様子がおかしい。
しばらく黙って見ていたが、口を出さずにはいられなくなった。
「どんくさいのね」
マルセルは何度も塀に足をかけてみてはいるのだが、それから先がなかなか進まない。
この調子では陽が暮れてしまう。
「早くしないと誰かに見つかっちゃうわよ」
「……体の動かし方がよくわからなくてさ」
「はあ? 何言ってるの、さっぱりわからない」
ぽつりとこぼしたマルセルの言葉に、ティアナは眉を顰める。
体の動かし方がわからない?
運動音痴だということだろうかと考えていると、マルセルは深い息を吐いてから、塀から手を離した。
「作戦変更。堂々と門から入ろう」
「最初からそうして」



