街の人に道を尋ね歩き、ようやく王妃の生家らしい場所へと辿りついた。
煉瓦塀に囲まれた屋敷は、まるで小さなお城のよう。
目の前にそびえたつ屋敷を見て、ポケットから顔をだしたティアナがため息をつく。
「立派なお屋敷ね」
ティアナのこぼした言葉に、マルセルはぷっと吹き出す。
「君は本物のお城にいたじゃないか」
「いたけど、ほとんど庭で過ごしていたもの。こんなところに住んでみたいと、本を読んで思っていたわ。とてもお金持ちのお家なのね」
ティアナが再び憧れの視線を屋敷に飛ばすと、マルセルは塀に近づいて行き、右手で何かを確かめるように塀に触れた。
「昔は貧しかったようだよ。だけど王妃さまが王宮に入ってからは家にお金が入ってきたらしくて」
「あら、詳しいのね」
「随分前に王妃さまのことを風の噂で聞いただけさ。貧しい家の出の者が王妃になったって大騒ぎだったようだよ」
「そうなんだ……」
そのとき、穏やかな鐘の音が鳴り響いてティアナは空を仰ぐ。
どこで鳴っているのかわからないが、その響きは美しく、賛美歌を聴いているかのよう。
ティアナはその鐘の音に聴き入っていたが、気がつくとマルセルが蔦の這った塀に足をかけて登ろうとしていた。
ティアナは咄嗟にポケットのふちにしがみついて引きつった声を上げる。



