「何かこのあたりでおもしろいものはないですか? おかしな宝石とか」
聞きながらマルセルがリンゴとパンを指さすと、店主は頷いてそれらを袋に詰め始めた。
「このあたりで有名なものと言ったら、王妃様の生家だよ。他の土地の者が珍しがって見に来るのさ。ただ、その王妃の家族が最近王宮に連行されてね」
そこまで言った店主に代金を手渡したところで、焦った様子の男が店主とマルセルの間に割り込んできた。
「おい、大変だ。聞いたかい。隣国のコレンタが石化して大変なことになっているらしい」
「なんだって! 石に!」
「国境近くまで、土地や建物、人畜までもが石になったという噂だぞ」
「それは大変なことが起こったもんだ……」
マルセルはそっとその場を離れた。
二人の話声が遠ざかっていき、聞こえなくなったと思ったらポケットをつつかれ、ティアナはゆっくりと顔を出した。
「この街は王妃さまの郷だったようだね」
「そうみたいね」
うわの空で答えると、マルセルに指先で軽く額を小突かれた。
小突かれたティアナが額を片手で押さえながらマルセルを見上げると、彼の優しい瞳と目があった。
ティアナと目があい、彼は柔らかく微笑む。
「行ってみようか、王妃さまの生家とやらに」



