「とりあえず、食糧を調達しに行こう。ついでに何か手がかりが見つかるかもしれないし」
「俺も……」
「アベルはだめよ。病人なんだから」
立ち上がろうとしたアベルを睨むと、つまらなそうにベッドに戻って行った。
それを見届けたマルセルにそっと持ち上げられ、ポケットの中に入り込む。
少し息苦しいが、ここなら人にみつかることもそうそうない。
マルセルがドアを開けて外に出ると、砂埃の乾いた匂いがした。
通りを歩く人は少なく、風の音がいやにはっきりと聞こえる。
露店の前に立つと、客と話しこんでいた店主がマルセルを見て目をまるくした。
「おや、ここらじゃ見かけない素敵なお方だね。旅人かい?」
マルセルは店主の言葉に頷き、柔らかな笑みを浮かべてみせた。
「そうです。いろんな土地を見て回るのが好きで旅をしているんですけど、ここにはさっき着いたばかりなんです」
ティアナはポケットの中で顔をしかめる。
なんでこうもなめらかに嘘をつけるのだろうか。
これがもしティアナだったら絶対、目が泳いでしまっている。



