「そんなだから誰からも求婚されないんですよ。仮にも一国の姫なのに」


「誰にも会ったことないんだもん。求婚されなくて当たり前じゃない」


ティアナはぷいとラナから顔を背け、再び庭園に目をやった。


彼女はこの国でたった一人の王女だ。

王女はむやみに人前に顔を出すものではないとされ、生まれてこのかたティアナは城の外に出たことがない。


おまけに3歳の頃からこの庭園に閉じ込められ、顔を合わせることができる人物はラナを含め指を数えるほどしかいない。

そのせいで、遊びたい盛りの幼い頃は、庭園に閉じ込められて毎日死んだように過ごしていた。


だがそれは昔の話。


今はもうすっかり慣れ、誰も来ないのをいいことに好き放題暴れまわっている。


「本当はわたし、幸せなのかもしれないわ。本によると、外のお嬢さんたちはこういうことをしたらいけないらしいの」


「ティアナ様もだめなんですよ! それに今日は、ジル殿下がお見えになってるんですからね!」


「え?」


驚いて振り返ると、2歳年の離れた弟、ジルがそこにいた。

木の上に座っているティアナを見て、眉を顰めたまま立っている。


「ちょ、ちょっと! いつからそこに!」


「姉上。しばらく見ないあいだにまた野生化していますね」


ティアナの問いには答えず、ジルはやれやれと肩を竦め、ティアナはあわてて木の上から身を乗り出した。


「だって、体を動かさないと退屈で……」