「ここも昔は楽しいとこだったんだが、国王最愛の王妃様が病で倒れられてから十年ほどこんな感じだ。噂では、国王に刃向った王子も追放されてしまったとか」


「王妃? それってまさか、エリアル!?」


「エリアル王妃を知ってるの?」


アベルの言葉に反応すると、マルセルがぴくりと眉を動かした。


「小さいときに会ったことがあるの。わたしの庭で……知らなかった、病気だなんて……」


ティアナは俯いてドレスの裾を握りしめた。


エリアルに会ったのはたった一度、それも随分昔のことだけれど、彼女の不幸は大きな衝撃だった。


ティアナにとってエリアルは眩い太陽のような存在であり、彼女のあの笑顔に出会えたからこそティアナは今日まで明るく生きてこられたのだ。


「……ほら」


沈み込んだティアナに、アベルができたばかりの服を差し出す。受け取って広げてみると、白い無地のワンピースだった。


「悪いな。即席で作ったから、お姫様には物足りないだろ」


「素敵よ。動きやすそうだわ」


動き回るのにドレスは邪魔だと感じていたティアナは、アベルの優しさを感じながら服を胸に抱えて素直に喜んだ。

喜ぶティアナに、アベルは満更でもなさそうに頬を掻く。