マルセルは唇を噛んでアベルを見ていたが、ふいに立ち上がった。
部屋を出て行こうとするマルセルを、ティアナは不安げに目で追う。
「どうするつもり?」
「手は尽くしてみるよ。大事な友人を見殺しにするわけにはいかない」
マルセルが部屋を出て行くと、ティアナはアベルの汗を拭きとったり、励ましたりして看病した。
「ごめんなさい……わたしのせいで」
苦しんでいるアベルの頬に、小さな手を滑らせる。
小さすぎて、優しく包み込むこともできない。
唇を噛んでいると、ドアが開き、器を手に持ったマルセルが部屋に入ってきた。
「それは?」
「……薬。効くかはわからないけど」
マルセルはアベルの背中を支えて抱き起こすと、器を彼の口に持っていき、ゆっくりと飲ませた。
全部飲ませて様子を見ていると、アベルの呼吸は次第に落ち着きを取戻し、熱も引いて行った。
マルセルとティアナは揃って安堵の息をつく。
「マルセル……もしかして、あなた魔法が使えるの?」
薬の効きめに感心しながらティアナがマルセルを見上げると、マルセルは笑って首を横に振った。
「魔法は使えないよ」
「そうよね……あなたから魔力なんて、感じないもの」
マルセルはアベルの落ち着いた寝顔に優しげな視線を向けていた。
ティアナは黙って二人を交互に見つめ、やがてドレスの裾をきゅっと握りしめた。



