「どうしたの? 誰?」
部屋に入ると、ティアナがびくっとして立ち上がったが、マルセルが抱えてきたアベルの様子を見るとすぐに口を閉じた。
マルセルはアベルをベッドに寝かせ、彼の額に手を当てた。
「ひどい熱だ。薬が合わなかったのかな」
呟くマルセルの肩の上によじのぼって、アベルの様子を窺っていたティアナが小さく声を上げた。
何事かと思い彼女を見ると、ティアナの首にかかっている指輪のピンクダイヤが、光を放っていた。
ティアナは血相を変えてアベルの体の上へ飛び降りた。
そしてアベルの体中を探り始め、右腕の辺りを確認したところで、絶望の声をあげた。
「どうしよう。わたしのせいだわ」
「ティアナのせい? どういうこと?」
ティアナはアベルの腕を捲り、ある場所を指した。
指さされた先を見て、マルセルは息を飲んだ。
アベルの右の二の腕に、豆粒ほどに小さな紫色の宝石がくい込むようにして埋まっていたのだ。
「これはわたしの指輪の宝石よ。魔力がない人間に、この石は強すぎるの」
「指輪の宝石……」
「この宝石には魔力が込められてるの。魔力に耐性がない人が宝石に触れたら、死んでしまうってお父様が言ってたわ」
「それなら、宝石を抜かないと」
「だめ。途中で抜いたら、本当に死ぬわ。彼の耐性にかけるしかないの」
「そんな……」
アベルは苦しそうに浅い呼吸を繰り返していて、服は汗でぐっしょりだ。



