「……」
「どうしたのですか? どこか具合が……?」
「え、いや、違うのよ。美味しそうだなって思って」
宙に浮かんでいるお菓子やティーカップを食い入るように見ていると、ラナが心配そうに顔を覗き込んできて、あわててお菓子をひとつ口に運んだ。
一口齧ったそのお菓子に、ティアナは目をまるくする。
「うわ、美味しい! さすがジルね!」
ティアナが齧ったチョコレートとバナナのタルトは、チョコレートが少し苦めでいいアクセントになっている。
「ジル殿下は甘い物がお好きですからねー」
ティアナの反応にほくほくした様子で、ラナは自分の分のお茶を淹れ始めた。
一人でお菓子を食べるのは嫌だと前に言ったときから、ラナはいつもこうして一緒にお茶をしてくれる。
「さてと。ティアナ様、どれを頂いてよろしいですか?」
「どれでも好きなものをどうぞ」
そう言ってやると、ラナは嬉しそうに苺のミルフィーユを選び取り、それもまた慣れた手つきで宙に浮かべた。
ぷかぷか宙に浮かぶお菓子やティーカップは、普通にテーブルに並べて食べるよりも楽しくて、いつもわくわくさせてくれる。
にこにこしながらティーカップを手にとろうとしたところで、伸ばした手の指にきらめくものが目に入った。
もらったばかりの、金色の指輪だ。
この指輪には、宝石が埋め込まれている。
見た限りではアメジスト、ルビー、サファイア、ピンクダイヤモンドの4種。
宝石は術者に力を貸してくれるけれども、ティアナの場合、下手をすれば命を落とすことだってありうるのだ。



