彼の言うことを信じていいのだろうか。
こんなにあっさり、それも突然に夢が叶うことなどあるのだろうか。
『いつかきっと救われる日がくるわ。あなたの王子様にね』
また、エリアルの笑顔が思い浮かぶ。
(ねえ、エリアル。この人なのかしら、わたしの――王子様は)
「さあ、王女様」
囁く男の声に導かれるように、ついにその魅力的な指輪に手を伸ばしてしまった。
ティアナの細い指に、男がそっと指輪を嵌める。
指輪はまるで、ティアナのためだけにあつらえられたかのように、その指にぴったりと収まった。
「それを使えば、あなたはここから逃げ出せる」
ティアナは黙ったまま、指輪を嵌めた手を空にかざした。
指輪は陽の光に煌めき、眩さに目が眩む。
ぼんやりと指輪を眺めるティアナをよそに、男はローブの下から剣を取り出した。
ティアナは一瞬ぎくりと体を強張らせたが、男は心配するなと言うように、笑みを浮かべた。
そして彼は両手で剣を構えると、勢いよく地面に突き刺す。
途端にそこから強い風が吹きあがり、ティアナは飛ばされないように必死で体を庇った。
「それでは王女様、またいつの日かお会いしましょう」
その一瞬、彼のフードが少しずれ、目のすぐ下の辺りに、小さな銀色の蝶の刺青があるのが見えた。
あっと思ったときには強い風が彼を取り巻き、だんだん彼の姿が見えなくなる。
「待って!」



