「な……、何をして……」
手の甲にキスをするのは挨拶のひとつだが、もちろんティアナはそんなことをされたことがない。
戸惑いながらも頬に熱が集まるのを感じて俯くと、それを見た男はふっと笑い、懐から何かを取り出した。
「魔法が使えないお姫様。あなたにこれをあげよう」
男の優しい声音につられるようにそっと窺い見ると、彼の手のひらの上に、金色に輝く小さなものが乗っていた。
繊細な花の細工が施された、息を飲むような美しい指輪だった。
おまけに指輪の中央には、豆粒ほどの4つの宝石が上品な佇まいで埋め込まれている。
「これを身につければ、あなたも魔法が使えるようになる」
そう言いながらティアナの手を再びとって指輪を嵌めようとしたので、ティアナは慌てて首を横に振った。
「わたしは宝石に触れてはいけないの。死んでしまうかもしれなくて……」
「大丈夫。宝石に触れさえしなければいいんだ」
「でも……」
「あなたはここから出たいとは思わないのか?」
「……」
確かにここから出ることは、長年の夢だった。
けれどそれが叶いそうな今、ティアナは怖くなってしまっていた。
(本当に、これでこの生活から抜け出すことができるの? この小さな指輪ひとつで)



