低い声に、相手は男だと確信し、ティアナは警戒して後ずさる。
「……誰? どこから入ったの?」
ここへ知らない人が入ってきたのは、エリアル以来のことだ。
一体彼らはどうやってここに入ってきているのだろう。
ティアナがいくら抜け道を探したって、それらしいものは見つからなかったというのに。
「魔法で簡単に入れましたよ」
飄々と言う男に、ティアナは眉を顰めた。
魔法を使ったって入れないように、それなりに仕掛けはしてあるはずだ。
魔法の国であるのだから、そこをぬかるはずがない。
ティアナの考えを読んだのか、男はふっと笑う。
「どんな魔法だって完璧なものはありません。弱点をつけば、破ることができるんですよ」
そう言って近づいてくる男に、ティアナは再び後ずさったが、薔薇の茂みに追い詰められてしまった。
「いや……来ないで!」
懸命に手を振って男を拒絶する。
ラナは一体どうしたのだろう。
もう戻ってきてもいい頃なのに、全くその気配がない。
ラナの姿を探すティアナに、男は柔らかな声を出した。
「そんなに警戒するな。俺はあなたを、助けに来た」
「え……?」
「あなたの噂を聞いた。長い間楽園に閉じ込められている姫がいるとね」
そう言った彼は、一瞬でティアナの目の前に立った。
それはまるで風のように、瞬きひとつの間の出来事だった。
男が驚きに固まるティアナの手をとって軽くくちづけると、その感覚に我に返ったティアナははっとして手を引っ込めた。



