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圭一の唇はやわらかかった。
それが、俺のファーストキス。
小さい頃に母親とか姉貴とかに散々されてたらしいというのはノーカンにして、告白ついでに奪われそうになったときや、水無瀬に失敗したくないからと練習台にさせられそうになったこと、出会い頭で危うくとか、そういう時にも大事に守ってきた俺のファーストキス。
我ながらロマンチスト、乙女チックだ。
姉貴の本を読んできた弊害だろうか。
初めてを篠塚さんと……そう妄想したことも、もちろんある。
そんなファーストキスを、圭一に奪われた。
思い返せば、俺が話しかけるとどもったり赤くなったり、思い当たる節がある。
けれど、ただの人見知りだと思っていた。
それほど親しいというわけではなく、かといってまったくつるまないわけでもなく、付かず離れずなクラスメイトの一人に過ぎなかった。
他のクラスメイトと違うといえば、篠塚さんと付き合っているという噂に嫉妬を感じたぐらいだろうか。
でも、噂は噂に過ぎず、付き合っているということは両者否定して、それどころか両者の恋愛感情は同性に向いていて、篠塚さんは三笠さん、圭一は俺だった。
それなのに、圭一のチョコレートを篠塚さんからかと聞いてしまったり、最悪なことをしてしまった。
きっと、知らない間にいっぱい傷つけてきたと思う。
テレビに出てくるタレントや、姉貴の持ってる本の世界とか、そういう指向の人たちがいるってことは知っていたのに、考えてもみなかった。
いや、案外このクラスにもいたりして。
って考えたことはあった。
でもそれは冗談半分で、大当たりだとは思ってもみなかった。