* * *
「悪い、青山。水谷先生が呼んでるっての嘘なんだ」
青山を連れて、渡り廊下の真ん中まで来たときに俺は立ち止まり、隣に立つ青山に顔を向ける。
吹きさらしの渡り廊下は寒いし校舎の中から見られる可能性があった。
けれど、寒いから誰も通らないし、出入り口も締め切られているので誰かに話を聞かれる可能性はなかった。
ゴミ捨て場なんかより全然いいだろう。
「え、そうなのか?」
なんでこんな所に連れてこられたのか検討もつかないだろう青山はのん気に首を傾げて俺を見ている。
「え、と……こ、これ……」
制服の下から、例のチョコレートを取り出す。
俺が選んだラッピングに包まれた、俺が作ったハートのチョコレート。
「えっ、圭一もくれるの?」
差し出されたチョコレートから俺に目線を移し、その黒い眼で俺を真っ直ぐに見つめる。
まんざらでもなさそうに見えたのは、きっと俺の希望的観測のせいだ。