「え、お昼休みに?」

「うん。なにか予定でもあった?」

「ない、けど……」



手元のネクタイを見つめる。


たしかに人づてに返すのも悪いよね。

って、わたしが持っていったわけじゃないんだけどな。




「お昼休みまでハギくんネクタイなしになるけどいいのかな」

「あ、それはぜんぜん大丈夫。だってあいつ……、いやなんでもねーわ」


「……?わかった。じゃあまたお昼休みに持ってくるってハギくんに伝えてもらってもいいかな?」

「おっけ。わざわざありがとうね、ましろちゃん」

「ううん!わたしのほうこそありがとう」



それじゃあ、と別れを告げてハギくんのクラスをあとにする。



やばい。もうすぐ2限目はじまっちゃう。

ちょっとだけ走ってもいいかな。









「あ、ましろちゃんこけた。




……なあさくら。もう帰ったぞ」




「おー、サンキュー助かったわ」

「ほんとだよ。いきなり立ち上がったと思えば無茶いいやがって」

「その無茶もこなしてくれるお前が好きだよ」

「やめろよ、もー」

「あはは」



まさか、



ネクタイをちゃんと締めたハギくんが教卓の下から出てきたなんて。



じんじんする膝に半べそかきながら走って、自分の教室に戻っていたわたしが知るわけもなかった。





「つーかお前さぁ」

「ん?」

「ヤオのことましろって呼ぶのやめてくれる?」