あの声を聞いていないんだろうか。


「なんか……『椿のように』とか、言ってたのが聞こえて来たんだけど」


朝から『死ね』という言葉を使うのもどうかと思って、俺は言葉を濁した。


すると母親は目をパチクリさせて「何の事?」と、聞いて来た。


「夜寝ようとしたら外からそんな声が聞こえて来たんだ」


「さぁ……聞いてないけど」


だと思った。


すっかり寝むっていたなら気が付かなくても不思議じゃない。


大人でも眠っている、そんな時間に女の子の声が聞こえたっていうのが不思議だったんだ。


まぁ、俺の気のせいだったのかもしれないけど。


そう思った時だった、パトカーの音が聞こえてきて俺は視線を窓の外へと向けた。


「こんな時間から騒がしいわね」


パトカーは1台ではないみたいで、次から次へとサイレンの音が聞こえてくる。


本当、何事だろうな。


「あ、もう行かなきゃ」


「お弁当忘れずに行くのよ?」


「うん。行ってきます」


俺は弁当箱をカバンにつめて家を出たのだった。