「私をここで雇ってください!」

「寝言は寝て言え」


おじいさんはリルの方を向くことなく、そのまま玄関をあけ開店した。

リルはソファから飛び降りておじいさんに詰め寄る。


「寝言ではありません!私は正気です!」

「とても正気とは思えんのう」とおじいさんはリルの言葉を軽く流して店準備をした。

「正気なんです!私、財布を盗まれて一文無しになってしまって、食べるものもなくて、それで働く場所を探してるんです!」

「ほお、そいつは災難じゃったのう。じゃったら騎士団に訴えるか、働き先を探して他の店を当たってみい」

「おじいさん!」


おじいさんはついにリルに振り返ってこう言った。


「わしは店の前で行き倒れになっていると店の商売ができんから、仕方なくお前さんを店で寝かせた。それだけじゃ!

じゃのにいきなり雇ってくれなんて言われても、どこの馬の骨とも分からん娘をそう易々と雇えるわけがなかろうが」


リルは黙り込んでしまった。おじいさんの言うことが全くもって正論だと思ったからだ。

そんなリルを見つめておじいさんは「分かったら、行きなさい」と促した。


「…どこの店に行ってもそう言って断られました。お願いします、ここで働かせてください!」

「そうは言われてものう」


「なんだ、今日は騒がしいな」


店の玄関から聞こえたその声でリルとおじいさんは喧嘩をやめて、声が聞こえた方を見た。

リルは目を見開いた。そこにいたのはリルを王都まで連れてきたあの人だった。