騎士団の人は汗を拭くと「今晩取引があるという情報を仕入れまして、この方に連絡したのです」と彼に視線を向けた。

「たまたまシャルクラーハで不審な人物を見つけたから跡を追った。まさかと思ったら、やはり犯罪に手を出している輩だった。しかも犯罪の内容は凶悪で、他国の奴隷商人相手に人身売買している」


間に合って良かったと彼は呟く。

リルも内心では安心する一方で恐怖も感じていた。

(私は奴隷商人に売られるところだったのか。この人達の助けがなかったら、私は奴隷になっていたのか。

探しているあの人にも会えずに、家族の元にも戻れずに、知らない場所で、知らない人に、人としてではない散々な扱いを受けて。)

自分自身を抱きしめていると「それで、お前はどうする?」と彼に問われた。


「え、私、ですか?どうするって、何を?」


何を聞かれているのか分からず、リルは首を傾げる。


「お前も明日、他の乗客と一緒に明日の昼の馬車に乗るのか?」

「私が行きたいのは、馬車に乗らないと行けないところですので。時間が無駄になるのが惜しいですけど、そうします」


リルがそう答えたのを聞いて彼は「お前は一人旅をしていると言ったな」と確認の言葉を投げかけた。


「行き先は?」

「王都です」


彼は顎を触りながら考えこむような格好をして、それから「選べ、娘」と言った。


「俺はこれから王都に戻る。その馬にお前を乗せてやれないこともない。

明日の昼に乗客達と馬車に乗るか、今から俺の馬で王都に行くか。選べ」


リルは戸惑った。