「蓮井蒼子さま」




不意に名前を呼ばれる。
その声には聴き覚えがあった。
丁寧で冷静な口調、それはあの時に出会った・・・。




「多々良さん」



多々良とは名字だろうかと思う。
珍しい名字だと思ったためよく覚えていた。




「先日は、我が主をお助けいただき感謝いたします」

「・・・主?」




なにを言っているんだろう。
自分が助けたのは狐であって、主とかそんな類の人ではない。




「折り入って、お願いがあるのですが・・・」

「はい・・・?」




微笑んでいるが、その瞳は鋭く射るようだと蒼子は感じる。
ただならぬ雰囲気に、逃げろと頭が言っている。
しかし、その体は言うことを聞かず、足をピクリとも動かすことができない。