「私、トイレだけど……さすがにそれは嫌だよね?」

「私なんて校庭だよ! 壁がある分中庭のがマシだって!」


 みんなが口々に自分の掃除場所を言う中で、私はひょいっと手をあげた。


「あ、私教室だよ」


 その途端、目を輝かせた舞が私の手を握り締めてくる。


「ありがとう、愛ちゃん!」


 手を握られて、真っ直ぐに私を見て満面の笑顔を浮かべられた。
 たったそれだけのことなのに、やっぱり私の胸は高鳴る。

 寒い寒い中庭に出ても、凍えたりしないだろう。
 それっくらい体がほてって、私は顔が赤くなっていないかと冷や冷やした。


「あのさ……入り口塞がないでくれねぇ?」


 突然掛けられた声にみんなが一斉に振り返ると、見られた相手が少しだけたじろいだ。
 私たちに声をかけてきたのは、稲葉だった。


「あ、ごめんね。稲葉くん」


 真っ先に舞が返事をして、みんなを率いて壁際に寄る。


「ごめんね」

「ごめんねー」


 舞を取り囲んで出入り口を塞いでいた私たちも壁に退いて、通路を空ける。

 稲葉はそのまま何も言わずに私たちの脇を通り抜けて、さっさと席に行ってしまう。

 その間、稲葉は私と目を合わさないようにしていた。
 仲良しなのが内緒だっていっても、これじゃ仲が悪いみたいだ。

 少しあからさまな稲葉に、私は少し笑ってしまった。