「教えて、くれないんですね」
自分の知っている女の子の名前を上げつくしたのか、女生徒はまくし立てて酸欠になった荒い呼吸で最後の念を押す。
「うん……ごめんね」
青山が眉をハの字に寄せて、真っ直ぐに女生徒を見つめる。
「好きな人がいるのは、本当にホントなんですよね?」
まだ諦めきれないのか、しつこく聞いてくる女生徒に頷き返す。
「うん。……好きな人が、います」
青山もまた誰かに恋をしているんだ。
「そう、ですか……すみません、こんな変なところに呼び出してしまって」
泣き顔を隠すように前髪をいじりながら、そっと涙を服の袖で押さえる。
「ごめんなさい」
そのまま立ち去ろうとする女生徒を引き止めたのは、青山の手だった。
「ありがとう。俺なんかのこと……好きになってくれて」
一瞬、女生徒の腕を掴んだ手はすぐに離れ、女生徒はそのまま走り去った。
少し臭うゴミ捨て場の裏に一人取り残された青山は靴の底で地面を蹴ると、くしゃりと自分の髪を掴んで顔を歪める。
青山も誰かに恋をしているのなら、ふられる辛さなど考えたくもないだろう。
思いが潰える痛みを共有して、今にも泣き出しそうな顔をする青山を――俺は、やっぱり好きだと思う。
普通じゃないと言われても、簡単に消すことなんて出来ない。
俺のこの気持ちを潰せるのは、きっと青山だけだ。
「ねえ、稲葉……」
最後まで俺たち二人に気付かなかった青山がゴミ捨て場を離れても、俺はその場から動けなかった。
「チャイム、鳴ったよ? 終業式が始まっちゃうよ」
遠慮がちな手が肩にふれて、何か返事をしようと思うのに、何も言えない。
「稲葉……」
俺がうずくまって腕で顔を覆ってしまうと、篠塚は何も言わなくなった。
ただ黙って、俺の側にいてくれた。