「瑞季ー?
そろそろ、拓史くん来るんじゃない?
今晩は鍋にしようと思うんだけど」
しばらくすると、母親がそう言って部屋のドアを叩いた。
……鍋?
この精神状態で、拓と鍋?
とてもじゃないが、そんな気分じゃない。
「……あー、ちょっと、私、風邪引いたみたいだから。
悪いけど二人でやってくれる?」
「あら、風邪?
大丈夫なの?
消化にもいいし、おじやぐらい、食べたらいいじゃない」
おじや……
卵でとじた、ぐにゃんぐにゃんのお米。
悪くない、悪くないけれど、拓の顔をまともに見れる自信がない。
「あー、ごめん。
後で食べれたら食べるからさ。
とりあえず今は、少し眠らせて」
そう、少し、放っておいて。
「そうね、わかったわ。
また声かけるから」
パタンパタンパタン、と、母親の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、拓と紅は今頃何をしているんだろう、と考える。
密室で二人きり。
男と女がすることと言ったら、そんなに沢山はない。
まさか、お茶しておしゃべり、だなんて、そんな女子高生みたいなことがあるだろうか。
ベッドの上で、見つめ合っている確率の方が高いのではないか。
だって、もういい年した大人だもの。
あんなに可愛い紅。
身体のラインだって綺麗だった。
若くて、肌だってスベスベに違いない。
違いないのだ、私とは、違って。