二階席も、ほぼ半分くらい埋まってきた。
一階席はいっぱい。
立ち見をしている人もいる。
そろそろ始まるのだろう、場内が静かになってきた。
緊張感がある。


照明が落ちて、突然、大音量でクラシック音楽が鳴り出した。
聞いたことのない曲。
オーケストラだ。

そう広くはないステージに、見知らぬ男女が5人。
劇のようなミュージカルのようなことをやり出した。
焼けたシーツのような衣装をみんな着ている。

……何をやっているんだろう。
意味不明なのでパンフレットを見てみる。
どうやら、原発反対運動を表現したモダンダンスらしい。



「……素敵」


隣で紅が呟いた。

……素敵?
見る人が見れば、そう見えるのだろうか。
私には正直、よく分からない。

けれど、身体の動きはどれも素晴らしかった。
筋肉も、骨も、美しい影を身体に落としている。


しばらくの間、放心状態でそれを見ていた。
何だかよく分からない。
分からない、けれど、分からないなりに何かを感じているような気がした。

隣で紅は、はあ、とか、ふう、とか言っている。


次の出演者は、少し年配の男の人だった。
彼の後について、大きなゴミの山のようなものと、小さな箱のようなものが運ばれて来た。



「あ、ヤスユキさん、がんばって」



そう紅が小声で呟く。

ヤスユキサン?
知り合いなのか?

チラリと横目で紅を見ると、落ち着かない様子でステージの上の彼を見ている。

パンフレットを見ると、「松井やすゆき」とある。
廃材やゴミを使った楽器の、音楽パフォーマーらしい。