「昔、お月様はりんのことを好きだから、追いかけてくるんだと思ってたやー」


庭に立ちながら、隣でりんがぽそりと零した発言。

はぁ、と気のない返事を返す。


今日は月見をしようと、俺の家族がりんの家へと押しかけている。

両親らが準備をしている間に、俺たちは庭で少し月を眺めているのだ。


「もう!
りんは本気で思ってたんだよっ」

「ってことは、今はさすがに思ってない?」


少し笑いながら、顔を覗きこむとぷくーっと膨らんだ頬。

お前が睨んだって恐くないよ。


「ゆーちゃん、バカにしてるでしょ?
りんだってもう高校生なんですっ。
思ってないもん」

「なんだ、残念」


そう言って、りんの頭をくしゃりと混ぜたあと、そのまま彼女の頬を軽く掠めた。


「思ってたらそれはそれで可愛かったのに」


黙りこみ、林檎色に頬を染めたりん。

そんな彼女を見て、クスリと笑いながら、手伝いをしに家の中へとひとり戻る。


俺が動くと決めた文化祭は。

りんを今までで一番泣かせて、幸せにする日は、もうすぐだ。