坂を一定のリズムで下る。


──タン、タン、タン


それと同時に隣に並んで歩く紫藤くんの自転車の音もカラカラと響いていた。


リュックの中の荷物が歩く振動に合わせて揺れるのを感じる。


「あ、紫藤くん、月出てるよ」

「そうだな」

「晴れてるからかなぁ。
今日はいつもより月が大きいね」


上を向きながら歩くと自然と口が開く。

ボーッと歩きながら見るのも意外と楽しかったり。


「今日は中秋の名月なんだろ」

「あ、そうなんだぁ」


淡々とつづられる言葉。

ただそこにある月。


そのふたつの関係性と、冷たいようで優しい彼の発言が。


「綺麗ね」


視界の端で、紫藤くんが頷いたのが見えた。


いつもと同じようで、特別な今はあの梅雨の日よりも柔らかい雰囲気を纏っていた。

雲で隠されていない空に、ひどく幸せを感じた。