「水樹くん、水樹くん、水樹くん!」

「……何」


年下の幼馴染である咲は、休みになると遊びに来る都会っ子。

こんな田舎までわざわざ足を運ぶのは、ここが彼女の母親の地元だからだとか。


来るたび俺から離れない彼女。

それは今日も変わらないようだ。


「ママに聞いたんだけどね、月が綺麗ですねって言ったら大好きって意味になるんだって!
水樹くんは知ってた?」

「知らない」

「そっかぁ。でも、今、覚えたよねっ」


ツインテールをぴょこぴょこと揺らしながら、咲は俺に笑いかける。


「まぁな」

「水樹くん、水樹くん!
あのね、『月が綺麗ですね』‼」


ストレートな言葉。

なのに、今日の言葉にはひねりもある。


深い意味のある言葉を使う彼女がどこまでも無邪気で、真っ白で。

俺は「そうでもないかもよ」と答えながらも、さすがに頬を染めた。


オレンジ色の光が、どうか俺の顔を隠してくれますように。