朝方に寝た楓は、熱もあった為か目を覚ましたのは昼過ぎだった。

ベッドから足を降ろしてゆっくりと立ち上がる。
幸い暖かい部屋と薬が効いたようで、ふらつくことなく歩くことが出来た。

楓は自分の服の方へ向かい、そっと撫でた。

それから覗きこむようにカーテンを少し開けて窓の外を見る。
昨夜の雨はすっかり上がって目も眩むような陽射しに、楓は目を細めて手をかざした。


(とりあえず電話しよう)


楓は乾いた服を手にしてカーテンを閉じると、それに着替えた。

着ていた部屋着を畳み洗面所に行ってみるが、洗濯機だけはどうやらこのアパートにはないらしい。


(…とりあえず、また戻ってこよう。鍵もあるし…)


落ち着かない雰囲気で、楓はアパートを後にした。

外に出ると、昨日自分が居た街からそう遠くはなさそうな立地だと気付いた。
だとすると、ここの家賃も相当高そうだ…と思いながら公衆電話を探し始める。

今、ほとんど設置されていない公衆電話を探すのは一苦労だろう。

しかし、楓は運よく古びた“たばこ屋”の店の前にある一台の電話を見つけた。

ポケットからしわくちゃで滲んだ文字のメモを取り出す。
そして硬貨を数枚入れて、ダイヤルを回した。

耳に響くコール音が途切れるのを、楓は何とも言えない思いで受話器から聞いていた。


『もしもし…?』
「あ、もしもし!」


しかしいざ、電話先から声が聞こえてくると、楓の顔は綻んでいた。