矢野に渡されたのは、いちごミルク味の飴だった。
ピンク色のパッケージに包まれた飴を、指で挟んで眺めてみる。
こんなの、なんでポケットになんて入れてたんだろ。
男のくせに甘党?
しかもいちごミルク……乙女すぎだし。
似合わないし。
自然と、ふっと笑みが零れる。
笑うと、矢野に腫れてると指摘された目に少しだけ違和感が残った。
矢野に不釣合いなピンク色の可愛らしい包み紙を破くと、甘い香りが広がる。
口の中を甘く色づける飴を転がしながら、一つ息を吐いて学校へと向かった。
「実姫!」
通学路に出た途端に響いた大きな声に、あたしは笑いながら振り向く。
「おはよ、和馬。クラス分かれたね」
声だけですぐに分かる和馬に言うと、和馬はそれには答えずに真面目な顔を返してきた。
「メール、ちゃんと見たか?」
和馬が言ってるのは、引っ越しの当日にもらったメール。
お節介な和馬には何も言っても心配させるから、あえて返信しなかった。
和馬とは今年で12年の付き合いになる。
小6まではあたしより小さかった身長も、今では無事あたしを追い越し、10センチ以上高く成長した。