鞄の中から手探りで取り出したケータイを開く。

ディスプレイが映し出す「田宮啓太」の名前に、今までの事が、ぽんと頭から抜けていく。


「啓太?!」


啓太は、中学からの彼氏。

中学3年の時に初めて同じクラスになって、同じ委員会になったのをきっかけによく話すようになった。

ずっと仲はよかったけど、お互い友達以上の感情は抱いていなくて。

そんな関係が変わったのは、卒業を控えた2月。


あたしのお母さんが……、突然家を出て行った事がきっかけだった。

お母さんが出て行く理由なんか分からなくて……。

何も訳が分からなくて。


それでも毎日学校に行かなくちゃならなくて。

日常の中で抱え込んだ不安だとか、寂しさだとか……そんな感情が溢れたのが、啓太の前だった。


放課後の教室で、泣きながらまとまりのない話をするあたしの傍に、啓太がずっと居てくれた。

ずっと、頭を撫でてくれてた。


……その時、初めて啓太に恋愛感情を持った。