「それで、姉さんは孤児院からここまで、フェルナン様にこのリンゴを持っていただきながら送ってもらったと?」
「ええ、そうよ」

(私、なにか悪いことでもしたかしら?)
フェルナンとのやりとりを思い起こしながら首を傾げるジェシカに、オリヴァーはなかなか厳しい視線を向けている。

「フェルナン様とは、最近なにかと縁があるわね」

〝あはは〟と乾いたごまかし笑いをしてみたものの、オリヴァーの視線は緩まない。

「まあまあ、オリヴァー。いいじゃないか。フェルナン殿が自ら送ると言ってくださったのだから」
「ですが……」

ジロリと姉を睨むオリヴァーが怖いと思うけれど、ジェシカは何がいけなかったのかを理解できずにいた。

「姉さん。そこまでさせておいて、なぜ招いて休んでいただかなかったんですか? 大したおもてなしができるわけでもありませんが、それでもあまりにも失礼です」

(ああ、納得だわ)
それなら大丈夫だと少し余裕を取りもどした姉に、オリヴァーの視線が緩むことはない。

「それはね、私だってお声がけしたわよ。けれど、急なことだし遅くなるからと固辞されたの」

どうだ、オリヴァー! 私は悪くないと、ジェシカは自信を取りもどした。が、オリヴァーの追及は留まることを知らない。

「そうですか」
「そうですよ」

(これで終わりよね? 解散よね?)
つかつかと目の前のテーブルを回り込んでくるオアリヴァーを、注意深く見つめる。ここまでの流れに何もまずい内容はなかったはずだと確信しつつも、背中を冷たい汗が流れていくのはなぜだろうか?

「姉さん、これはなんですか?」

オリヴァーの持ち上げた籠を見て、賢いはずの弟は一体何を言い出すのかと、その真意を探るように目を細めた。ジェシカはこれでもオリヴァーとの腹の探り合いをしているつもりだ。けれどその実情は、彼の掌の上で転がされているだけだと全く理解していない。こういう追及モードに入ったオリヴァーに、ジェシカが勝てるわけがない。
それどころか、今日は何も落ち度がなかったはずだと、ジェシカは胸を張った。

「リンゴよ。オリヴァーも知ってるでしょ? 孤児院になっていたじゃない。次に行くときは、これでおやつを作ろうと思って」
「へえ……よく知ってますよ。孤児院へは、姉さんによく連れて行ってもらってましたから」

ジェシカは幼いオリバーを連れて、よく孤児院を訪れていた。もちろん、双子の妹達も。どうせなら大勢で遊んだ方が楽しいと思ったし、父もそれを許していたからだ。
おまけに、オリヴァーに本を読んであげようにも、ミッドロージアン邸には絵本がほとんどなかった。貧しい中で購入した本は、自分達だけで楽しむのはどうにももったいないというマーカスの考えもあった。
そこでマーカスは、本をミッドロージアン家用ではなく、孤児院用として購入していた。それもあって、この家の子ども達は孤児院へ頻繁に通い、共に遊んで共に読み聞かせ合ってきたのだ。

「でしょ?」

一緒に通った日々を思い出したジェシカは、楽しそうに目を細めた。
が、しかし、オリヴァーの視線は鋭いままだ。